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大阪地方裁判所 平成2年(ワ)9269号 判決 1992年8月27日

原告

太郎丸節子

ほか一名

被告

渡辺亘

主文

一  被告は、原告太郎丸節子に対し金三一二万四七六円、原告太郎丸建設株式会社に対し金四二万七〇〇〇円及びこれらに対する昭和六三年七月二八日からいずれも支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用については、原告太郎丸節子と被告との間に生じたものはこれを三分し、その二を同原告の負担とし、その余を被告の負担とし、原告太郎丸建設株式会社と被告との間に生じたものはこれを一六分し、その一五を同原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一原告らの請求

被告は、原告太郎丸節子(以下「原告節子」という。)に対し金九四〇万円、原告太郎丸建設株式会社(以下「原告会社」という。)に対し金六九五万円及びこれらに対する昭和六三年七月二八日からいずれも支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  本件は、被告の運転する普通乗用自動車(以下「被告車」という。)が、原告節子の運転する普通乗用自動車(以下「原告車」という。)と衝突した事故について、

1  原告節子が負傷したとして被告に対し、民法七〇九条に基づき損害賠償を請求した。

2  原告会社の業務全般にわたつて一手に従事していた原告節子が本件事故による入通院治療のため労務提供できなかつたにもかかわらず、原告会社が原告節子の生計の維持のために通常の給与の支払を余儀なくされたとして、不法行為に基づく損害賠償請求、あるいは損害賠償者の代位(民法四二二条)の類推適用、第三者の弁済(民法四七四条)の準用、事務管理者の費用償還請求権(民法七〇二条)に基づき右支払相当額の金員の支払を請求した。

二  争いのない事実

1  交通事故の発生

日時 昭和六三年七月二八日

場所 兵庫県明石市魚住町清水三八番地先交差点

態様 原告節子が原告車を運転して南進中、原告車の右側面に被告が運転する被告車の左前部が衝突した。

2  被告は、被告車の保有者である。

三  争点

1  原告節子の損害額(治療費、入院雑費、逸失利益、入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、弁護士費用)(被告は、本件事故が軽微な衝突であることから、原告節子の受傷に疑義があり、仮に受傷しているとしても、軽微な頸部捻挫に過ぎず、本件事故と相当因果関係のある治療期間は三か月間、休業期間は一か月間であると主張する。)。

2  原告会社が被告に対して、前記一2の請求権を有するか(被告は、原告会社の原告節子に対する前記一2の支払は、役員委任契約に付随する報酬契約に基づくもので、これを被告に転嫁することはできないとし、また、右支払は利益配当を主とするもので、労務の対価部分を選別することは不可能であるから、賃金センサスの平均給与額によつて算定すべきであると主張する。)。

3  過失相殺(被告は、原告節子が発進する際、被告車の動静を充分注意すべきであつたのに、これを怠つたとして、二〇パーセントの過失相殺を主張する。)。

第三争点に対する判断

一  証拠(甲一、二の1ないし14、三の1ないし14、一三の1ないし8、乙一の1ないし14、二の1、2、三、四、原告節子、被告各本人)によれば、以下の事実が認められ、甲一七、原告節子本人尋問の結果のうち、右認定に反する部分は採用できない。

1  本件事故状況

本件事故現場は、東西に伸びる両側二車線の国道(以下「本件国道」という。)と、ほぼ南北に伸びる中央線のない幅員約五・八メートル(路側帯を含む。)の道路(以下「南北道路」という。)が本件国道の南側部分とで交差する信号機の設置されていないT字形交差点のすぐ南側の南北道路上である。本件事故現場は、平坦なアスフアルト舗装で、本件事故当時、路面は乾燥していた。本件事故当時、原告節子は、原告車を運転し、本件交差点の北側の本件国道沿いにある洋菓子店の駐車場から本件交差点内に進入するため、南向きに停止し、本件国道の通過車両が途切れるのを待つていた。その後、本件国道の通過車両が途切れたが、その際、本件交差点の南詰付近で、本件交差点を右折するため北向きに停止している箱型のワゴン車(以下「本件ワゴン車」という。)の運転手が、原告節子に対し、先に行くよう合図をした。そこで、原告節子は、本件交差点を直進南下し、本件交差点南詰から南北道路を南へ約八・七メートル進行した地点で被告車と衝突した。右衝突直前の原告車の速度は、時速約一五キロメートルであつた。また、本件事故当時、被告は、被告車を運転し、本件交差点の北西角付近の本件国道沿いにあるガソリンスタンドで給油した後、南北道路を南進しようとして本件国道を南へ横断した。ところが、当時、南北道路の西側部分を本件ワゴン車が北進してきたため、被告は、本件交差点南西角の路側帯上で南東向きに停止して、本件ワゴン車が通過するのを待つていたところ、本件ワゴン車が本件交差点を右折するため、被告車のすぐ東側(本件交差点の南詰停止線付近)で停止した。その後、本件ワゴン車が本件交差点内に進入したので、被告は、南北道路に入るため、右停止地点から約五メートル右折南進した地点で、南北道路の東側部分を南進してきた原告車を進路前方約一メートルに認め、急ブレーキをかけたが間に合わず、被告車の左前部角付近が、原告車の右側ドア付近と衝突した。右衝突直前の被告車の速度は、時速七、八キロメートルであつた。右衝突後、原告車は、進路を変更することなく約五・四メートル進行して停止し、被告車は、約二・五メートル進行して停止した。右衝突の結果、被告車は、左前角が凹損し(修理費約三万円)、原告車は、右側前後ドアが凹損し(修理費約六万円)、両車とも破損の程度は、小破であつた(なお、原告らは、本件衝突の際、被告がアクセルとブレーキを踏み間違えたと主張するが、仮に間違えてアクセルを踏んだとすれば、被告車の右衝突後の進行距離が二・五メートル程度にとどまつているのは不自然であるうえ、衝突された原告車の方は、右衝突後、原告車によつて進路を変更されることもなく、被告車の二倍以上の五・四メートル程度も進行しており、さらに、アクセルとブレーキの踏み間違いがあつたか否かは、交通事故の発生原因、運転者の過失の存否、程度に関する極めて重大な事実であるにもかかわらず、原告節子と被告の警察官に対する各供述調書や実況見分調書には、この点に関する供述部分が全く見当たらないことからすると、原告らの右主張は採用できない。)。

2  原告節子の受傷及び治療状況等

原告節子は、本件事故直後は身体に異常を感じなかつたが、約一時間後から頭痛、めまい、悪心、頸部痛、肩こり痛、頸部運動制限を訴えて本件事故当日、国仲病院で治療を受けた。そして、その日は帰宅したが、翌日(昭和六三年七月二九日)にも同病院で受診し、その際、原告節子は、頭痛、頸部痛、運動制限、めまい、背部(背柱)痛等を訴えており、医師は、右頸部打撲、頭部外傷、頸椎挫傷、胸椎捻挫により本件事故日から約三週間の休養加療を要すると診断した。なお、その際のレントゲン検査の結果には異常がなかつた。そして、原告節子は、右同日から同年九月九日まで同病院に入院して治療を受けた。右入院期間中、原告節子は、頭重感、めまい、吐き気、前頭部から後頭部におけての痛み、頸部痛、背中上部から肩胛骨にかけての痛み等を訴えており、頸椎牽引、電気治療、湿布、鎮痛剤の投与等の治療が行われた。原告節子は、右退院後も、同病院に通院して、頸椎牽引、電気治療、湿布等の治療を受けた。なお、原告節子の右通院日数は、昭和六三年九月中が三日、同年一〇月中が八日、同年一一月中が四日、同年一二月中が通院なし、平成元年一月中が三日、同年二月中が通院なし、同年三月中が三日、同年四月中が一六日、同年五月中が七日、同年六月中が六日、同年七月中が七日、同年八月中が通院なし、同年九月中が三日、同年一〇月中が一日、同年一一月中が一日である。ところで、原告節子は、右通院中の昭和六三年一一月一四日から一週間、ハワイ旅行をした。また、右病院の医師は、平成元年二月現在、現在節子が寒冷、雨天の気候不良の際に頭痛、頸部痛と肩こりを訴えるのみであるので、おおむね症状固定しているとの見解を持つていた。なお、原告節子の頸椎には、骨棘の存在が認められている。

二  原告節子の損害

1  治療費一一四万二六四〇円(請求一九一万四六〇五円)

国仲病院の医師は、原告の症状固定日を平成元年一一月一五日とする診断書を作成している(甲一)が、前記一2(原告節子の受傷及び治療状況等)で認定した原告節子の症状及び治療経過からすると、原告節子は、右病院を退院後は、平成元年四月を除いて、通院の頻度はかなり低く、右通院期間中の症状、治療内容にも大きな変化が認められず、また、右病院の医師は、右診断書上の症状固定日よりもかなり以前の時点で、おおむね症状固定との見解を持つていたのであり、しかも、原告は、昭和六三年一一月一四日には、往復に長時間の旅程を要する一週間の海外旅行に出かけていること、前記一1で認定したとおり、本件事故態様がかなり軽微なものであることからすると、原告については、昭和六三年一〇月末日に症状固定したと解すべきである。そうすると、治療費については、本件事故日から昭和六三年一〇月末日までの国仲病院の治療費一一四万二六四〇円(甲三の1ないし4)に限定して本件事故と相当因果関係を認めるべきであり(なお、右各診療報酬明細書の各「給付対象外」欄記載の金額は、本件事故と相当因果関係のない室料差額や後記の入院雑費として評価すべきものであるから、治療費の対象から除外すべきである。)、右期間中の鍼灸治療については、その必要性が認められないので、治療費として考慮するのは相当でない。

2  入院雑費 五万五九〇〇円(請求同額)

前記一2(原告節子の受傷及び治療状況等)で認定した原告節子の症状及び治療経過からすると、本件事故と相当因果関係のある入院雑費としては、五万五九〇〇円(一日当たり一三〇〇円の四三日分)が相当である。

3  逸失利益 七八万七五四五円(請求四七六万七〇〇〇円)

原告節子は、土木建築請負業等を営む原告会社の代表者であり、本件事故当時、原告会社の中心的立場にあつて、業務全般を担当していた。本件事故当時の原告会社の資本金は二〇〇〇万円で、その株式は、原告節子夫婦とその親戚が保有していた。また、原告会社の役員は、原告節子が代表取締役、原告節子の弟と原告会社従業員二名の合計三名が平取締役であり、原告会社の従業員は約五〇名である。原告節子は、本件事故当時、原告会社から、毎月六〇万円の役員報酬を得ていたが、平成元年四月から毎月一〇〇万円に増額されている(甲四の1、2、五ないし一二、一四、一五の1ないし3、一六の1、2、原告節子本人)。

右認定事実によれば、原告会社は、原告節子を中心とする同族会社であり、また、原告節子は、原告会社の業務全般を中心的立場で担当していたことからすると、原告節子の右役員報酬のうち、その五〇パーセントは、労務の対価部分と認められ、残りの五〇パーセントは、原告会社からの利益配当部分であると解される。そうすると、逸失利益の算定対象は、労務の対価部分に限定すべきであり、利益配当部分は、原告節子個人の本件事故による逸失利益と因果関係がないから除外すべきである。

さらに、前記一2(原告節子の受傷及び治療状況等)で認定した原告節子の症状、治療経過からすると、原告節子は、症状固定日であると認める昭和六三年一〇月末日から三年間にわたつて、五パーセントの労働能力を喪失したと解するのが相当である。そうすると、本件事故と相当因果関係のある逸失利益としては、前記のとおり、原告節子の報酬が平成元年四月から増額されていることを考慮すると、労務の対価部分が年間三六〇万円(一か月三〇万円)の期間である昭和六三年一一月から平成元年三月までの五か月間(新ホフマン係数四・九三八)については、七万四〇七〇円(労働能力喪失率五パーセントを適用)であり、労務の対価部分が年間六〇〇万円(一か月五〇万円)の期間である平成元年四月から平成三年一〇月までの期間(三六か月の新ホフマン係数三三・四七七から右五か月の新ホフマン係数四・九三八を控除した二八・五三九)については、七一万三四七五円(労働能力喪失率五パーセントを適用)となる(以上合計七八万七五四五円)。

4  入通院慰謝料 五〇万円(請求一二五万円)

前記一2(原告の受傷及び治療状況等)で認定した原告の症状、治療経過、本件事故状況、その他一切の事情を考慮すれば、入通院慰謝料としては、五〇万円が相当である。

5  後遺障害慰謝料 六七万円(請求同額)

前記一2(原告の受傷及び治療状況等)の認定事実及び前記二3(逸失利益)で判示したところによれば、後遺障害慰謝料としては、六七万円が相当である。

6  弁護士費用 二八万円(請求七五万円)

原告節子の請求額、前記認容額、その他本件訴訟に現れた一切の事情を考慮すると、原告節子に関する弁護士費用としては、二八万円が相当である。

三  過失相殺

前記一1(本件事故態様)で認定したところによれば、被告は、本件交差点内の路側帯部分から原告車の進路上に進入しようとして、原告車の側面に衝突したもので、当時、本件ワゴン車のために左側の見通しが悪かつたのであるから、左方から進行してくる車両に充分注意して進行すべきであつた点でその過失は大きいが、他方、原告節子も、本件事故現場が交差点付近であり、自己の進路上に他の車両が進入してくることを充分予想して運転すべきであつた点に過失があり、これらを総合すると、前記二1ないし5の各損害合計三一五万六〇八五円について、過失相殺として一割を減額する(二八四万四七六円、円未満切り捨て)のが相当である。

四  原告会社の請求

前記一2(原告節子の受傷及び治療状況等)で認定した原告節子の症状及び治療経過、通院状況、右通院期間中の原告節子の行動に、前記二3(逸失利益)で判示したところを併せ考慮すれば、原告節子が、本件事故による受傷のため、原告会社に対して労務を提供できなかつたのは、前記入院期間中の四三日間に限られると解すべきである。ところで、仮に、原告節子が、右入院期間中に原告会社に対して労務を提供しなかつたことを理由に、原告会社から右労務の対価部分の報酬の支払を受けられなかつた場合には、被告は、原告節子に対して、右相当額の損害賠償義務を負うというべきである。そして、前記二3(逸失利益)で認定したとおり、右入院期間中も原告会社が原告節子に対して全額の報酬を支払つているのであるから、原告会社の右支払のうち、三八万七〇〇〇円(右入院当時の労務の対価部分である一か月三〇万円について四三日間の日割計算をした四三万円に過失相殺として一割を減額)については、原告会社が受けた本件事故と相当因果関係のある損害であると解される。

さらに、原告会社の請求額、前記認容額、その他本件訴訟に現れた一切の事情を考慮すると、原告会社に関する弁護士費用としては、四万円が相当である(以上合計四二万七〇〇〇円)。

五  以上によれば、原告節子の請求は、三一二万四七六円(前記三の過失相殺後の金額二八四万四七六円に前記二6の弁護士費用二八万円を加えたもの)とこれに対する本件交通事故発生の日である昭和六三年七月二八日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、また、原告会社の請求は、前記四の合計額四二万七〇〇〇円と右同日から右遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

(裁判官 安原清蔵)

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